なとりうむのメモ帳

アナログな趣味が多め。好きなことをメインにごく稀にTipsとかも書きます。

銀の弾薬も救いもないよ

読んだ本の感想です。
消えたい 虐待された人の生き方から知る心の幸せ
高橋和巳

本書を手に取った経緯

私は長年生きづらさ、希死念慮に耐えたり、向き合い続けてきています。
あまりにも生きづらく、どうにかもう少し楽にすることはできないのかと超短期間ですが初めてカウンセリングサービスをオンラインですが利用したことがあります。*1
自身が意図的に自覚しようとしていなかった思想の部分や、パートナーとの距離感、家族との関係性など開示し情報整理、会話することにより「ああ、やっぱり」と思ったり「そのような表現方法もあるのか」などと、少なからず身近な人ではない赤の他人に開示したからこそ得られたものがありました。
結局価格が高かったので、お試し期間のみで利用終了してしまったのですが「なるほど、カウンセリングとはこういう感じのものなのか」と雰囲気をつかんだところでした。

また最近体調を崩し、メンタルクリニック通いをしているのですが本格的にカウンセリングを受けるか否かを悩んでいました。
やはりネックは価格で、保険適用ができないことが多いためどうしても高額になってしまうんですよね。*2
そこで自身がまず学んでみようと思い立ったわけです。
「何でも自己解決しようとするのは悪い癖だよ」と知人が言うのが目に浮かぶようですが、やはりカウンセリングは高価すぎて手がでません。*3
ロジックを理解して知識となれば一生ものですし、活字を読むのはもともと好きなので本にお金をかけたほうがよさそうと判断したためです。

生死をさまようような過酷な虐待を受けたわけではありませんが、少しおかしい環境で育ったという自覚はあるので本書を手にとってみました。
他にも治療のロジック的な本も合わせて手元にありますが、お話仕立てでとっつきやすいのでこれから読むことにしました。

本の内容

本書は高橋和巳さんという精神科医師によって2014年に出版されました。
著者が担当した患者さんとのやりとり(カウンセリング)を受けて、「普通に生きてきた」著者の生死や社会に対する感覚・理解・視点と「虐待を経験しつつもなんとか生き延びてきた大人」である患者のそれとの差を感じたことが本書を書くきっかけだったようです。
大きく回復している事例を取り上げ、カウンセリングで患者が語った言葉やそれの変化について著者の分析(というか感想)が添えられている本です。
基本的にそれらを踏まえて治療方法として体系化する的な話は一切ありません。
感情的な部分にのみフォーカスしている、エッセイとして読んだ方がよい内容である点はご注意ください。

感想

「こんなことわざわざ書くこと?」 「言いたいことは理解しているけど、世界の感じ方、生きづらさ・希死念慮も減ったことはない」
が最初の感想でした。
そんなの自身の経験と向き合い続けている側からしてみれば理解できていると思います。
もちろんあまりに過酷な経験過ぎたり、その人のキャパオーバーした経験をしている場合は記憶や感覚、感情に蓋をしなければ生きてこれなかった人は別でしょう。
そもそも向き合う余裕なんかなかったわけで、とにかくその瞬間生きるか死ぬかということですから。
そのような方は現在大人になっており十分加害者から距離が取れているのであれば読んでみてもよい本だと思います。

個人的には、終始きれいな部分だけ切り出しているし深刻さは「普通」の人には伝わらないと口の中をもごもごさせてしまいました。
いくら治療とはいえ、語る側もわざわざグロテスクなことを言いたくないのでマイルドにするものですし。
あまり異様で不気味な内容になっても読者に受け入れてもらえないから削ぎ落としているんだと解釈しました。

「当たり前のことしか書いてないな~ハズレだったかな」ともにょもにょしていたら、本書で出てくる患者さんの言葉がそのまま本書にも当てはまる!と強く感じたので引用させていただきます。

哲学書の説明がとても不思議だった。当たり前のことを、なんでこうもくどいくらいに論じるんだろうと思った。 最近、その違和感の原因が分かった。哲学は『普通の』人用に書かれているのだと理解して、それが納得できたのだ。

この「哲学書」を「本書」に置き換えればぴったりだと思います。
あくまでも、身近にこのようなことで苦しんでいる人を理解したいけどさっぱりわからない人または、経験が過酷すぎて蓋をしてきていたけど初めて向き合ってみようと思い始めた方向けです。

「結局は自分との戦い」でしかないってことですね。
自身の人生だから当然ですけど、銀の弾薬もありませんし、誰かが救ってくれるなんてこともありません。 逃げ道はなく、徹底的に自己と向き合い続けるしか方法はなく、周りとの齟齬を日々感じながら苦しむしかないんです。
せめて外側だけでも「普通」に見えるようにと我慢、努力にしがみついている手を離せるかどうかで若干気持ちが楽になるかどうか、それも確約はないって話でした。
ある意味それって世捨て人になることと同義だと考えますね。
持ってないから求めて頑張っちゃってるんですから、それが簡単なことでないのは容易に想像がつくと思います。

最後に

既に己と戦っている人で本書を読もうとしている方はハッピーエンドのお話を楽しむ感覚でOKです。
回復したって例が提示されていることはよいことですからね。
でもこの内容通りに進んでいないということに落ち込まないでください。
私もうまくいっていない側ですし「そんなことレアケース中のレアケースでしょ」とまで思っています。
本書で取り上げられている事例はごく一部です。
また個人の感性の差や症状の種類や程度の差も影響します。
今苦しんでいる方が本書でさらに心を痛める必要は微塵もありません。
苦しくなったら読むのを止めて温かいお茶を飲みましょう。

*1:その話はまた別途記事にしてもいいかもしれませんね

*2:認知行動療法は保険適用内だったりするようですが

*3:カウンセリングの価格自体は妥当だと思います。きちんとその道で学習した専門職の方を30分~1時間専有するわけですし、実施場所の賃貸やカルテの管理とか諸々の手間を考えれば安く済むサービスだとは思えません。